三木 稔 Home Pgeへ PASIC 06紀行報告

PASIC 06紀行 報告

11月8日〜11日、アメリカ・テキサス州オースティンであったPASIC(Percussive Arts Society International Convention)06からの招待を受けて行ってきた。この行事は、毎年開催地を変えて行なわれ、世界中から7.000人もの打楽器関係者が集まるという打楽器のメッカ的祭典で、私が頼んだわけでもないのに”New and Unknown Marimba-Percussion Works of Minoru Miki” という1時間のコンサートをやってくれるという提案だった。私の《マリンバの時Time for Marimba》というソロと、《Marimba Spiritual》というマリンバと3人の打楽器奏者の曲は、欧米の打楽器奏者はみんな知っているとよく聞かされる。特にSpiritualはロンドン・ニューヨークの(Brustなどの)ショウで度々長期公演されたり、ベルリンのテレビCMで使われたり、欧米の著名マリンバ・ソリストや打楽器演奏団体のCDは何十も出ている。オケ付の《マリンバ協奏曲》《Z協奏曲》は別として、上記2曲の他にいろんなところに頼まれて書きながら、自分からは殆ど広報もしていなかった5〜6曲を纏めて大会でやってくれるという今回の提案は貴重なことで、当初は半信半疑だったが、ありがたく承諾した。

そのコンサートを最初に企画し、自身演奏もするのはMr. Zとニックネームされている若く優秀なマリンビストBrian Zatorである。そして彼が指導する、テキサス州の有名な大学Texas A&M UniversityのCommerce校(TAMU-C)打楽器アンサンブル。その練習や同一プログラムでの事前の2回のコンサート、そしてその大学での私のオペラのレクチャーなどもあって10月末日に妻の那名子同伴でダラスに飛んだ。開幕日8日にはコンマースから車で4時間のオースティンに移動したが、美しい川と湖のあるこのテキサス州の州都は、11月というのに人々は半袖、近年人気が高くどんどん人が集まり、現在人口百万、いつも音楽のある街だそうだ。

PASIC 06は大小(300席から3.000席)10ほどのホールを持ったコンヴェンション・センターで行なわれ、コンサートとか、クリニックとか、パーフォーマンスとかさまざまな名で表示されていたが、とにかく朝9時から夜中の11時ころまで、1時間刻みで4つ乃至5つの演奏が並行して行なわれるのである。

世界中から600くらいのグループがエントリーして2割くらいしか採用されない狭き門だそうだが、館内には数千の人が常時溢れ、自由に各コンサートを行き来する大きな祭りである。しかも館内最大のスペースは各種打楽器や出版業者の百近いブースに区切られ、楽器や楽譜を漁る若者たちでいつも大賑わいであった。

「新、及び、知られざる三木稔マリンバ・打楽器作品コンサート」は、10日14:00から最大の3.000席のホールで行われた。マリンバとドラムのデュエット《マリン・ダンダン》、5人のマリンバの《カシオペア・マリンバーナ》、小松島市の太鼓チームに頼まれて書いた《義経太鼓》(ツイン曲《金長太鼓》は、時間制限でPASICでは演奏できなかった)、ソプラノとマリンバとピアノの《相聞III》、打楽器8重奏の《Z Conversion》の順で演奏されたが、千人近い聴衆が途中去ることもなく、最後の”Z Conversion”が終わるや否や、全員が間髪をいれず立ち上がって大拍手を始めたのでびっくりした。《相聞III》の後で、英語で5分ほどスピーチをさせられ、「次の《Z Conversion》はJazzyだが、ジャズではなく私の郷里の阿波踊りのリズム『ぞめき』から来ている」のだと高い舞台で踊る真似をしたので大爆笑だった。喋ったあと実際の演奏を見たく、そさくさと舞台を下りて客席最前列の横で聞いていたので、スタンディング・オベイションに手を挙げて応えたものの、後ろの方の人には見えず、「しまった!」と思ったが後の祭りだった。

これらの曲はGo Fish Musicという面白い名の出版社がPASICに合わせて出版、ブースで即売し、私は演奏後買った人へのサインに呼び出され、すぐ完売した作品もあった。そこで買えなくてもwww.gofishmusic.comを開いて申し込めば、外国からでもカードで買える。こういうありがたいことを、今回総て米側が自主的に進めてくれ、私は送られてきた校正を見ただけ。今年オペラ《愛怨》初演後、「北杜国際音楽祭」の立ち上げや、主宰しているグループ、監督している演奏団体のことで超多忙だったわが身を振り返って、ありがたいやら信じられないような気分だ。

そのような私には何の文句もないが、今回PASICで知ったことで義憤に駆られたことがある。マリンバが、ラテンの楽器といわれて芸術祭参加申し込みも難航したという1968年の《マリンバの時》や、1984年作曲の《マリンバ・スピリチュアル》を私に委嘱して、最初に欧米に広げてくれた安倍圭子さんの、あちらでの人気と日本での人々の無関心さとの、あまりのギャップの大きさだ。今回彼女は、現地で大人気のNorth Texas University Brass Orchestra と Percussion Ensemble と共演して、超満員の聴衆から1曲ごとにミーハー並みの声援を受け、この何十年の献身と実力から、神様のように世界のマリンバ界から尊敬され、愛されてきていることを実証して見せてくれた。またPASICに若い桐朋学園マリンバ・アンサンブルを紹介したり、本人は70才近いととても思えないダイナミックな演奏と進歩的なマレット技術をふんだんに披露。こういう人こそ人間国宝的に顕彰すべきであるし、きちんと賞を差し上げなければ日本は恥ずかしい。

一方、帰国直後、芸大時代から親友だった故・池野成の作品演奏会を聞いたが、彼は打楽器とトロンボーンを溺愛し、寡作ながら”Evocation”のように傑作を書き残している。これらを日本のマーケットだけで留めるのはもったいない。なんとかPASICの舞台に乗せ、国際的な出版に持ち込まねばならない、と真剣に考えた。PASICを体験してきた故の着想であり、私のツテを手繰って実行しようと思っている。

PASICの他のコンサートを聞いている中で、驚いたこともう一つ。「ええっ?」とわが耳を何度か疑ったほど《マリンバ・スピリチュアル》の「そっくりさん」に出会った時だ。「一寸ひどいのではないか」と思ったが、たまたま帰国直後、Pius Cheungという中国系の米マリンバ奏者で作曲家のハンサムな青年から来た次のメールを見て納得することが多かった。彼はPASICのブースでサインを頼まれた一人である。作品のCDもその時くれた。

Dear Mr. Miki, we met at PASIC. I'd just like to say what an honor it is to finally meet you.  I, like most marimbists, am a huge fan of your Marimba Spiritual.  In fact, your composition is the reason why I chose to play marimba.  It was Keiko Abe's recording of your Marimba Spiritual that made me sure I want to play the marimba.  And with no sense of exaggeration at all, I think that most of the pieces written for marimba solo and percussion ensemble are just following in your footstep.  You have created a sound that all composers wants to mimic.

彼は「マリンバ・ソロや打楽器アンサンブルに書かれたたいていの作品が、あなたの道をなぞっているといっても誇張ではありません。あなたは、総ての作曲家が真似したくなる音を創造した」と確信しているらしい。私がHPを開設してからスピリチュアルについて、こういったメールが引きもきらず来る。実は、私のほかの分野の作品でも部分的な「そっくりさん」と出会うことも結構あって、若いときには「盗作ではないか」とそのたび腹が立ったが、Piusのようにオリジナリティーがどこにあるかを確信している人が必ずいると安心して、これからは大いに喜ぶことにしよう。そんなことを考えると今回は、何時までも青臭い自分が、大人になる切っ掛けを得た、とてもいい旅だった。


三木 稔