オーラJの第24回定期


2009年11月 三木稔

邦楽創造集団オーラJの第24回定期は、10月14日四谷区民ホールで行われましたが、私が長年温めながらなかなか企画できなかった「新筝協奏曲特集」が新筝誕生40周年の機に芸術文化基金の助成を受け、芸術祭参加公演として現前し、様々の過去が走馬灯のように巡って、客席から聞いていて胸が熱くなりました。3月の〈浄瑠璃姫物語・異聞〉に続くオーラJの大型企画で、こういうコンサートを続けていれば、オーラJの世間からの信頼はいやでも高く深くなっていくと自信を持ちました。
まず木村玲子さん。私も長く新筝の演奏を聞いてきましたが、これほど安心して聞くことに集中できたことは稀で、どの音楽要素から見ても、また協奏部分とソロ部分の次元を踏まえた、真のソリストとしての最高度の演奏力は、もっともっと世界に知らしめたいと思います。私の2曲について合奏部分も、作曲の意図を踏まえて本当に良くやってくれました。自分で演出を兼ねて《コンチェルト レクイエム》の石の導入も極めて自然にいったし、冒頭の照明もリーズナブルに遂行され、この曲の例のない特殊な出自と、成長の中で体験させられた悲劇を超えてきた30年近い歴史の重みを、言わず語らずとも聴衆に納得をさせられたと確信します。《松の協奏曲》も、木村さんの存在感は勿論、舞台上の人数は最小だったのに、ポピュラリティーを持った堂々たるトリの曲としての演奏で、客席は満ち足りたと思います。
初のフルコンサートの指揮をした?であろう金井君の指揮も、私の期待以上だったし、聴衆からの評判も上々でした。その能力を、これからも作曲とあわせ大いに発揮してもらいたいものです。
今回の狙いの一つは、指揮や作曲で金井君と江原君を売りだすことと、新筝部門でコンチェルトが弾ける奏者として、オーラJで長く頑張ってきた松村エリナ・藤川いずみの二人の登場の機会を演出することでしたが、江原君の《荒御魂》も若いエネルギー満載で、長さも適当だったし、いい構成感を示し、気迫満々の藤川さんの堂々たるソロマナーで、オープニングから、気持ちよい緊張感を会場に漲らせてくれました。マーティーの《愛》は練習中、繰り返し感がバランスを超えていると感じて、今回に限り5分程度のカットをお願いしましたが、結果的にモチーフの積み重ねが、聴衆に与える満足感の上で極めて適切な長さになり、本番前からこれでいける、と考えていましたが、エリナが当日唯一の赤い衣裳を着けて跳ねるように登場をしたのには一瞬驚きました。でも、すぐこれは正解だと思い直しました。前後の曲の極度の緊張感に挟まれて、この曲の内容を体現したあの柔らかい演奏と入退場を、芸術祭参加定期の本番で実行できるのはエリナの持った稀な資質でしょう。日本の構成感から行けば「起承転結」、ソナタ形式でいえば第3楽章にスケルツオまたはメヌエットを置いたような安堵感でした。
オーラJ は、このところフレッシュなアーチストが続々入団・定着していますが、今回は《コンチェルト レクイエム》があったこともあり12名も助演をお願いしました。しかし、やりがいのある作品と練習を続けていれば、本来一つのチームのように溶け込んでくれるものです。予算の許す限り、現勢力で出来ない作品も定期で取り上げていくつもりです。箏助演の3人が20枚もチケットを売ってくれたそうで、この定期も1階は満杯で、こぼれた人が相当数2階で聞いていました。今回は私の長い入院生活等で任せることが多く、病床から携帯メールで何度か檄を飛ばしたのですが、団員それぞれが立場を理解して団結の成果が今回はくっきりと見えたように思います。


三木 稔