親しくしてくださっている方々へ

2007年7月4日 三木稔
皆さん、不定期な梅雨の季節ですが、お元気に過ごされていることと推察いたします。

 ご連絡が遅れましたが、昨年私が創設し、今年からアルソアというスポンサーを得、そのNPO法人「八ヶ岳自然村」が主催し、日本の中央高原で、夏の終わりに行われる八ヶ岳「北杜国際音楽祭」www.hokutofestival.com が、8月22日〜26日の5日間10公演と、昨年に倍する規模で近づいて参りました。芸術監督としてご案内申し上げます。

 その準備と並行して、作年より作曲中のフォークオペラ《幸せのパゴダ》が昨日7月3日脱稿しました。3年前、徳島県の飯泉知事より、07年11月4日、徳島で行われる国民文化祭グランドフィナーレの総合プロデュースと作曲を委嘱され、オケピットのあるホールがない徳島向きのオペラを考えながら、当時大阪いずみホールで《春琴抄》の素敵なホールヴァージョンの演出をしていた岩田達宗に会い、「これだ!」と台本・演出を依頼、快諾されたものです。《幸せのパゴダ》The Happy Pagodaは2時間ちかく、《うたよみざる》《よみがえる》《照手と小栗》に続く、せりふも交えた私のフォークオペラ第4作で、20世紀題材を含まない『日本史オペラ8連作』と補完し合います。ライフワークの一つとしてきた、さまざまな局面を持つ12作のFulllength(一晩もの)のオペラが、遂に、いややっと完成しました。
 フォークオペラ4作の中で、名古屋で作った《照手と小栗》は、グランドオペラ並みに好評なのに、あまりにも出演者が多いため、再演・東京初演後の上演企画が度々頓挫しました。しかし他の3作は、その機動性と市民性からいって頻度の高い上演が予測されます。私が主宰して創立した「歌座」だけでも既に260回上演の《うたよみざる》、草野心平の蛙を扱った詩や散文に基づく《よみがえる》に続いて、今回の《幸せのパゴダ》は岩田達宗の演劇性満開の台本・演出と私のオペラへの長年の経験がマッチして創り上げ、指揮をする榊原徹ほかスタッフ・キャストも万全ですので、諸手を挙げてお招きいたします。ここ10年制作を依頼していた者の不手際で「歌座」は残念ながら看板を下ろすほかなく、「三木オペラ舎」として東京で制作し、徳島で11月4日13:00から初演されます。
 グランドフィナーレのトリとして4日夜初演される25分のフォークシンフォニー《ふるさと交響曲》は、オーケストラも邦楽集団も、「ふるさとの風」(詩:三木那名子)を歌ってミニ「第9」的に最後に入る合唱も、全部地元演奏家が担当し、昨夏完成して既に練習を重ねています。

 今年前半には私の作品による下記5つの大きなオペラやコンサートがありました。
  • 2月11日 岡山シンフォニーホール 開館15周年記念オペラ《ワカヒメ》(指揮:飯森範親)
  • 3月4日 津田ホール 東京室内歌劇場主催「三木稔オペラアリア集1」出版記念コンサート
  • 3月25日 津田ホール オーラJ第19回定期「邦楽器による伝説舞台《羽衣》」を指揮
  • 5月3日 東京文化会館ではモーツァルトのレクイエムを前半に演奏した浅草混声合唱団から、後半に演奏する私の《レクイエム》の指揮を依頼され、新第3楽章「花の歌」を追加した40数分の通称「三木レク」混声版改定初演を、44年前に初演して以来、初めて指揮する羽目、いや光栄に浴しました。ここまでのいろんな反応はwww.m-miki.comに既に載せてあります
  • 6月20日 津田ホールでのオーラJ第20回定期演奏会は、団員たちに祝福されて「三木稔喜寿記念」コンサートとなりました。邦楽器合奏作品のみのプログラムで、60年代《古代舞曲によるパラフレーズ》、70年代《ダンスコンセルタント1「四季」》、80年代《松の協奏曲=筝協奏曲第4番》、90年代《ロータスポエム=尺八協奏曲》という、私の出世作、アマチュアにささげた合奏曲、新筝と尺八の代表的ソリストである木村玲子と坂田誠山の協奏曲を配置した重量感のあるコンサート(指揮:西田幸士郎)でした。この反応は近じかHPに載せます

 ただ、このように重要なオペラやコンサートが続いたので、私としては入りが大変心配でした。それがなんと、完売して札止めになった2つを含め、ほとんど満員のお客様で各会場いっぱいになったのです。各プロジェクトの集客担当者たちの努力に感謝しながら、まことに嬉しく安堵しましたのでご報告いたします。

 喜寿といえば聞こえがいいのですが、先の保証のない、ほぼ日本人男性の平均寿命です。《レクイエム》を書いたのが1963年。そのころから休むことなく、とくにここ数年、どうしても書き残したい作曲や、絶対に現前させたい企画のプロデュースに狂奔してきたと自分でも思います。蝋燭の消える前のはかない輝きだろうと見ておられる方々も多いだろうと感じる事もあります。おそらくその通りでしょう。このようなご報告も、いつもこれで最後かなあと思いつつ書いています。

 この半年、寸暇を縫って山岡壮八著「小説太平洋戦争」9巻を読み続けてきました。為政者たちの無為無策の犠牲となって、意味なく、かけがえのない命を絶った数百万の兵士や民間人の、時に幽鬼のような死に様のあまりのむごさに絶句続きです。それなのについ先日、不見識きわまる発言で辞職した防衛大臣がテレビで頭を下げる醜態を見、お前もか、の怒りと恐ろしさに凍りました。一方、前の土曜日、東京都合唱祭で浅草混声が《レクイエム》の第1楽章を演奏し、私もバスパートを一緒に歌いましたが、太平洋戦争の犠牲者たちの霊に捧げたこの《レクイエム》を聴いた講評者たちや、他団体のたくさんの若い人たちが書いた感想文が届き、演奏への感動と同時に、この音楽をきっかけに半世紀以上前の戦争を考え直したいという真摯な感想を幾つか読んで、44年前に作曲した自分の行為の正当性に深い満足を覚えました。

 今しばらく頑張ります。若い世代への引継ぎを真摯にはかりながら、かつて存在しなかったものへ、ドンキホーテのように突き進んだ自分のさまざまのトライを、あと一歩でも二歩でも進めます。

 さあ、もうすぐ『東西音楽交流の聖地』を目指す八ヶ岳「北杜国際音楽祭」です。初日22日水曜の夜は、新しく建設中のアルソア野外劇場で打楽器王国アメリカのプロジェクト「パルサス・トリオ」が演じるさまざまなマリンバ・打楽器の芸と、東西音楽交流の主柱シズカ楊静の琵琶。木曜の夜は、第一線のオペラ歌手たちが挙って参加を表明してくれる「東西オペラアリア・コンサート」の第1回。金曜夜はオーラJの《羽衣》全曲。土曜の夜は、シズカ楊静の企画で、NHKにたびたび登場する、あの素敵な二胡チェン・ミンさんも演奏し案内してくれる「中国音楽の旅」。日曜夜のクロージング・コンサートは、音楽祭参加の日米打楽器奏者たちが滞在中にリハーサルを繰り返して、本番では即興の限りを尽くす《Z改造計画》(Z Conversion)という私の作品で打ち収めます。昨年オースティンで行われた世界の打楽器の祭典PASICで、聴衆の間髪を入れないスタンディング・オヴェイションで迎えられた、私の肝いりの仕掛です。各日午後の公演では甲信地方や夏滞在型アーチストたちのコンサートや、「全国現代邦楽合奏団コンヴェンション」に加えて、打楽器の神様・有賀誠門とシズカ楊静のワークショップ的コンサート。さて何が飛び出すか楽しみこの上ありません。今年は「風林火山館」で賑あう、名所いっぱいの北杜市観光も兼ねて「おいでなって!」

 11月、国民文化祭でのフォークオペラ《幸せのパゴダ》、フォークシンフォニー《ふるさと交響曲》両初演、および《幸せのパゴダ》公開ゲネプロ(3日午後)はすべて無料招待制で、8月末が申し込み期限です。このメールアドレスにご連絡くだされば取り次ぎます。是非是非、晩秋の阿波路観光もついでに、「おいでなしてよ!」


三木 稔