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2006.1
2006年1月 のメッセージ集

オペラ《愛怨》が脱稿し、『三木稔、日本史オペラ8連作』が33年を要して完成したことは前回のWhat's Newに書いた。《愛怨》はすでに個々の歌手たちのコレペティ稽古が盛んに行われており、2月17日(金)、18日(土)、19日(日)に新国立劇場オペラ劇場で世界初演を迎える。
 それに先立ち、1月21日(土)新国立劇場中ホールにおいて、13:00より《愛怨》オペラトークが、私や台本:瀬戸内寂聴、指揮:大友直人、演出:恵川智美の話、そして釜洞裕子・経種廉彦が代表的なアリアを歌う。わずか500円のチケットはボックスオフイス03-5352-9999で求められる。《愛怨》については劇場のHPの中の
www.nntt.jac.go.jp/season/opera_2005_6/ai-en.html で見られるが、詳しいデーターは、このHPの「三木オペラ作品への招待」日本史連作オペラにある。
 今私は、8千メートルのヒマラヤ連峰を踏破し、最後のエヴェレストで日の出を待つ感覚でいる。

昨年9月21,23,25日に、北千住駅前の新劇場Theatre 1010で、英語での世界初演以来20年ぶりに日本語初演が行われた《じょうるり》は、嬉しいことにオペラ関係者に会うたびに誉められ、コリン・グレアムの徹底した演出に応じ、稀な密度の上演だったとみんな言う。それだけの要素はあった。まず制作者でもある美術・衣装の朝倉摂先生のご努力、そして照明の吉井澄雄さんと合わせた両大御所が全力で仕事してくださった。来場された演出家の栗山昌良先生が「これは最高のキャスティングだ」と私におっしゃった歌手たちが、指揮のアンドレアス・ミティセクが日本語をわからないという困難を越えて、真夏の長い練習を克服して本番に到達したのを見続けるのはまさに作曲者冥利であった。勿論器楽陣も他のスタッフも、そして外から協力してくださった皆さんありがとう。大きくは30年に亘るコリン・グレアムとの真摯なコラボレーションがもたらした結果だとは言え、朝倉先生、ご努力にただただ感謝あるのみです。ハイビジョンカメラで記録したヴィデオの編集が終わったら、なんとかハイヴィジョンシアターで公的に見る機会を作りたい。

同じく昨秋、11月8日市ヶ谷ルーテルセンター、10日千葉駅前のば・る・るホールの2回行われたオーラJの第17回定期演奏会で、「邦楽器による伝説舞台《羽衣》」を新作初演したが、これは1998年にスタートして今大きく伸びようとするオーラJにとって起死回生のプロジェクトとなった。1995年にモスクワで日ロが共作してロシア語で初演した音楽劇《羽衣》は、今もボリショイ劇場に近い青少年劇場のレパートリーとして上演されているそうだが、そのとき私が書いた、序曲や極めて素朴な歌の旋律十数曲を生かして、オケでなく邦楽器群の伴奏に仕立て直した。佐藤容子にも新しい部分を託し、器楽部分は若い作曲家たちの創作も求め、作曲と演奏でオーラJ全員参加、そしてソプラノ赤星啓子、バリトン石鍋多加史という、音楽でドラマを演じきることができる素晴らしい歌手と邦楽器群によって、「羽衣」という、みんなが知ってそうで知らない伝説世界を見事に展開した。企画に惹かれたか2箇所とも満員になり、来場した老若男女皆さんが重ねて見たり聞いたりしたくなったという。今までの邦楽器世界と違った身近な感動を作り出すことに成功したように思える。芸術監督としてオーラJを牽引すべき身にとって、こういった形で《羽衣》を企画し、制作統括できたことは、私の長年のプロデュース暦でも指折りの感檄であった。早速、文化庁の「本物の舞台芸術鑑賞事業」に採用され06年11月後半に10箇所を巡演することになった。チケットが買えなかった方々のために、東京の定期でも再演するつもりだ。

しかし、その《羽衣》初演前の11月1日の練習中、私は不覚にも救急車で病院に運ばれる失態をしでかした。車内で計った血圧は230、その前にすでに、たまたま持っていた血圧に効く薬を飲んでいたので、実際は250を超えていたかもしれない。明らかにここ数年は《愛怨》とさまざまなプロデュースが並行し、仕事が過ぎた。この日も私は3時間ぶっ通しで練習での指示を続けていた。その場は事なきを得たが、医者たちはなべて「年をわきまえろ」「危険信号と思え」と脅迫する。ハイ!来年からは、ほんの少し寡黙になりますので、皆さんご安心を!
このWhat' Newも半分にしますから読みやすくなりますよ!

ただ一つ、長年の夢であった夏の高原での国際的な音楽祭を計画中であることは書いておきたい。時は8月18日、19日、20日の3日間、「北杜国際音楽祭」として、東西のバランスの取れた5コンサートを束ねて行う。出演はスイスの有名なルチェルン音楽祭の中心メンバーで組織された Chamber Soloists Luzerne を招き、私が主宰するアジア アンサンブル、そして上記オーラJがメインで、単独、また興味深い共演も図る。
是非多くの方に、この時期の避暑を兼ねて音楽祭を聞きに八ヶ岳南麓に滞在していただきたい。ひたすらお待ちします。

三木 稔