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2005.1
2005年1月 のメッセージ集

昨年は何と災害や事件の多かった年であろうか。世界の一部の政治家たちの傲慢に対する天誅ではないのかと考えたくなる激しさであった。05年は「心優しい人たちが目立つ世界になってほしい」と年賀状に書いてしまった。

03年8月に瀬戸内寂聴さんから、とてもオペラ台本第1作とは信じられないような、でも待ちに待った痛快きわまる台本をいただいて《愛怨》のデッサンに入り、まさに夜を日に継いで書いてきた大作のボーカルスコアが昨年12月3日ついに仕上がった。
書き進むほどに、面白ければ面白いほどオペラとして手を加えたいところを方々に発見したが、なんともジェットコースター並という先生のご多忙ゆえに、途中から直し希望箇所へのご対応を
いただけなくなった。オペラでは台本は本来作曲家と台本作者が共同制作をすべきものである。時間のない先生から改定への自由を頂いて、作曲の筆とドラマ作りの妙味を交錯させながら、一瞬の惰情も許されない、でも大変充実した1年半近い創作生活を送ることができた。ボーカルスコアが送られたようで、歌手たちは練習に入れるし、スタッフもプランを考え始めることができる。これから始まるオーケストレーションは、知的労働としては最も過酷なものの一つだが、音楽の実体が出来上がっているので、作曲家としては最も楽しい作業に入ることになる。この秋には、5世紀から19世紀までの日本史の各時代をカバーする、私のオペラ8連作が丁度30年を要して完成するわけだ。あわせて20時間近く、一つのテーマを持ったオペラ連作として超世界記録と信じる。「三木オペラ作品への招待」のページで、各オペラがそれに耐え得るクオリティーを持っているかどうか確認願いたい。
 もっとも、オペラ後進国の日本、世界の片隅からこんなことを夢見るのは非常識らしく、20年くらい前から本人一人が折に触れて書いているだけだが、その野望があったからこそ、ひょっとすると超人的かもしれないライフワークに挑めたのかもしれない。《愛怨》の音楽時間は2時間10〜15分と計算している。来年2月の初演だが、今月下旬スタッフ・キャストが発表される。(新国立劇場から正式発表になりました。「三木オペラ作品への招待」日本史連作オペラをご覧下さい)

もう一つオペラのビッグニュース。グレアム台本・演出で85年世界初演、88年日生劇場がセントルイスオペラを招待して英語で日本初演した第3作《じょうるり》の日本語版日本初演が、なんと20年ぶりに成就するのである。初演で美術・衣装を担当された朝倉摂先生が、ご自分が受賞された賞金をつぎ込んで立ち上げられた感動的なプロジェクトだ。データーを書こう。この豪華なメンバーで成功は間違いない。北千住駅横にできた700席
(今回はオケボックス使用のため605席) の新しい素敵な劇場なので、チケット発売後すぐにお買い求めを!

オペラ《じょうるり》日本語初演
2005年9月21,23,25日Theatre 1010(シアター センジュ,朝倉摂芸術監督)
キャスト お種:澤畑恵美、与助:黒田博、阿波少擾:木村俊光、3人の訪問者(テナー):伊達英二、弟子1:谷川佳幸、弟子2:塩入功司、弟子3:大久保光哉
演奏 東京交響楽団、指揮:Andreas Mitisek(ウイーン・カンマーオペラ音楽監督)
尺八:坂田誠山、新箏:吉村七重、太棹:鶴澤寛也
スタッフ 演出:Colin Graham、美術・衣装:朝倉摂、照明:吉井澄雄、振付:尾上菊紫郎、舞台監督:北条孝、プロデューサー:井上真次

 日本語版は英語と並行して20年前に完成しているが、全音から出る予定の「三木稔オペラ・アリア集(上)」のためにアリア部分の日本語を直した際、他の部分も改定を決心、今月中に仕上げる。

今も私が芸術監督やプロデュースをしている演奏団体がいくつかあるが、オペラ作曲に集中する中で昨秋は、「アジア アンサンブル」の実質的な東京デビューと、その「アジア・シルクロード音楽フェスティバル」の一環としての地方巡演を行った。東京は津田ホールの「ホール協賛」公演で、二つの民間財団の助成も頂き、11月9日に02年以来のレパートリーを整理して、私としても納得のいくプレゼンテーションができた。来聴した水野修孝さんがスタッフに言い残してくれた「奇跡的なアンサンブル!」「ここ数年聴いた演奏会で最も感動した!」「歴史的瞬間に立ち会えた!」という言葉が、この団体を創立してプロデュースしている私の苦労を完全に吹き飛ばしてくれた。日本の代表的な作曲家が同業者の仕事にこれほどのコメントをしてくれるというのは稀なことではなかろうか。水野君ありがとう、是非「アジア アンサンブル」のために作曲してください!

《天如》《佐保の曲》《竜田の曲》《東から》《ラプソディー》 という、私の新箏(21絃)ソロ作品のうちシリアスなレパートリーのみで行った木村玲子のリサイタル(9月24日、トッパンホール)は新箏で35年前から考えていた私の夢を初めて果たしてくれた。彼女は《箏譚詩集》全20曲通奏にも挑むという。私がアンソロジーを考えて書き続けてきたさまざまなジャンルの作品群に挑むソリストや演奏団体が多くなってきて、作曲家として年を重ねることの幸せをかみ締めている。

スイスに移住してますます欧米での活動が多くなったシズカ楊静は、12月に自作と三木作品のソロコンサート、そしてピエール・ファーブルとの即興演奏の中国ツアーで Pipa の第一人者としての本国での盛名を深めたが、日本を愛し、去年も度々日本でそのエンドレスな音楽性と技術を披露して行った。11月4日の東京リサイタルでは、私の、後の半分は初演の小品集《時の彩りI, II, III, IV》を弾いた。3月11,13日ホノルル交響楽団と三木《琵琶協奏曲》 を演奏する。6月はじめと10月後半〜11月前半も日本で活動予定であり、06年2月の《愛怨》初演では、ピット内のみならず舞台上でも秘曲演奏という重大な役柄を担う。シズカも私のPipa作品アンソロジーを舞台とCDで計画している。

秋になるが11月20日、男声合唱団・東京リーダーターフェルとそのシニアグループであるジルヴァーナーが、それぞれの80周年と10周年に合同で私の最初の《レクイエム》をトリフォニー大ホールで演奏する。60年代(私の30才代)にアマチュアとして声を出したくて加わっていた私に、ターフェルの仲間たちが私の作品だけの定期演奏会を計画してくれたのだ。それに応え、アカペラの《合唱による風土記―阿波》、オペレッタ《牝鳥亭主》、そしてバリトン独唱・男声合唱とオーケストラのための《レクイエム》を1年がかりで作曲、一挙に初演という、私の作品のアンソロジー的演奏のはしりであった。初演した折《レクイエム》は5楽章であったが、長年ソプラノソロが入る《花の歌》という一章を追加する計画を持っていて、妻が大分前に詩を完成させている。当時、太平洋戦争での犠牲者に捧げる鎮魂歌として書き、男声・混声両版で無数に演奏されているが、先月後半から新楽章を作曲中にスマトラ沖の大地震が起こった。《花の歌》は図らずもインド洋の地震と津波の犠牲者の冥福を祈りながらの作業となってしまった。

3月23日市谷ルーテルセンターで行われる「オーラJ」第15回定期演奏会(佐藤容子プロデュース)では、後半に《箏双重》《ロータス・ポエム》という70年代の13絃箏二重奏と、90年代の尺八協奏曲が演奏される。後者は合奏部分がオーラJヴァージョンだが、尺八協奏曲に本当の声価が確定した曲がないといわれる中で、最も円熟した境地に来ている坂田誠山の、この曲への初挑戦をみんな期待している。

駆け込みの注文に一つ応えなければならなくなった。打楽器の8重奏である。5月5日、日本パーカッションフェスティバルで初演したいと旧友の頼みを断れず、"Z Conversion" というタイトルで書くつもり。"Z" は阿波踊りのリズム「ぞめき」のイニシアル。ご想像あれ。

昨年正月のこの欄(メッセージ欄で見られます)で、正月ならではの夢を書いた。どうやらその半分が正夢になる可能性が出てきた。でも普通なら私は夢など語れる年ではない。目前の重大な責務を果たしてから、ゆっくりと語り直そう。

その代わり、まことに小さな望みを託して2年前に書いた《あしたまた》(英語版“See you again”)に賛同し、各種のヴァージョンを一緒に出版してくれる(有)キックオフの稲垣昌弘さん(www.chorus-club.co.jp) をアンコールでご紹介する。各版日本語(三木那名子・詩)と英語(三木稔訳詩、Colin Graham補作)が付き、ギターコードを伴った歌旋律、ピアノ伴奏のソロ版、混声合唱、女声合唱(Pf付)、男声合唱が収められて今月中に発売される。単純な楽譜と宇佐美瑠璃さんがピアノ伴奏で歌ってくれた音はこのHPの私の作品リストから見たり聞いたりできます。お試し下さい。
では次のメッセージでSee you again ! いやコンサートかオペラの会場で、あしたまた会いましょう!!!

三木 稔