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2003.9
2003年9月 のメッセージ集

前回のWhat's Newを書いた後も、新聞やテレビが告げる主な情報は、SARSのような新しい恐怖、イラクや北朝鮮のような新帝国主義的政治情勢、何千年経っても解決しそうにないパレスチナとイスラエルの悲劇、情けない日本政治の外交オンチ等々を繰り返すばかりで、十に一つも明るい話題はない。欧米頼みのクラシック音楽業界も同レベルで、この老作曲家が半世紀前に見た夢を、生命ある間に期待するよすがとてない。自らが若い意思を持って行なえる行為を、ひたすら完全を期しつつ進めるだけである。

オペラ第8作《愛怨》の作曲が遂に8月半ばから始まった。瀬戸内寂聴さんにお願いしていた奈良時代遣唐使を題材としたオリジナル台本の完成を待って、このオペラのクライマックスで演奏される光貴妃の琵琶秘曲《愛怨》からデッサンを開始している間に次々に第1稿が到着。さすが大文豪!と唸った素晴らしいストーリーの展開である。日本史に沿ったオペラ連作を完成させるこの大作のために自分のモチヴェーションをあげたいと、6月から7月にかけてヨーロッパ、特にかつて強烈な啓示を受けた古代ローマの遺跡とミケランジェロに再びめぐり合ってきた。《源氏物語》完成から3年半を置いて機はまさに熟し、先日、寂聴さんとさまざまに楽しいお話が出来た。第2稿を待ちつつ決定している冒頭部分から筆を進めている。

1985年、英語で世界初演されたオペラ第3作《じょうるり》は、日本語版も並行して完成していたが、88年に英語版で日本初演されたあと、日本語版の初演はなされないまま来た。東京にできるある新しい劇場で、20年ぶりにそれが実現されることが決まった。まことに楽しみである。

1986年に私が主宰して創立したオペラシアター歌座は、10月文化庁の「本物の舞台芸術鑑賞事業」の一環としてフォークオペラ《うたよみざる》の北海道・東北公演で上演250回を超える。歌座は創立後6年間に他に幾つものフォークオペラや小オペラ・オペレッタのレパートリーを創作しながら、その後上演できないで来たが、来年から新しい体制で再出発して、それらの仕込みに順次取り掛かれる。ご期待ください。

6月のオーラJ定期での《松の協奏曲Koto Concerto No.4》(二十絃筝ソロ:木村玲子)、そして9月の日本音楽集団定期での《コンチェルト・レクイエムKoto Concerto No.3》(二十絃筝ソロ:吉村七重)は、共にコンサートのトリを飾り、強烈な印象を残す好演であった。オーラJは10月4日、徳島県民文化祭のオープニングで「三木稔共楽の輪」のタイトルでコンサートを行なう。

7月に京都・愛媛・香川で行なわれた「楊静と結アンサンブル」公演は《東の弧》《平安音楽絵巻》などに来聴した近隣のホールから来年へのラブコールが続いている。香川県志度コンサートホールは音響のよさで知られるが、カメラータ・トウキョウが両作品をレコーディング・セッションを行なった。発売が待たれる。

30年も前から書きかけて立ち止まっていた十三絃の筝の小品集が、初音篇から熟音篇にいたる《筝ピース・フォー・ピース Koto Pieces for Peace 》(51曲)としてこの春、遂に完成。大日本家庭音楽会が10月から順次縦譜で出版する。9月から《芽生え》の筝二重奏版、尺八と筝の合奏組曲《瀬戸内夜曲》、尺八と筝の《千絵の曲》なども並行して同出版社から出る。三木稔の作品は、技術的に難易度の高い曲ばかりではない。バイエルからソナチネまでの感覚で、皆さん是非お試しを!

《ホタルの歌》という筝合奏組曲も8月上旬に完成。十三絃2パートと十七絃で、徳島邦楽集団の委嘱。来年1月に作曲者の指揮で初演予定。

9月「三木稔ピアノ曲集」が全音楽譜出版社から発売された。私は邦楽器やオーケストラ、そしてオペラの創作に追われ、二十才台に書いた《三つのフェスタル・バラード》《夏の叙事詩》等、わずかしかピアノのソロ作品を書く時間がなかったが、愛奏される可能性のある優しい曲の幾つかも加えた纏まった出版ができ、とてもありがたい。

未出版の二十絃筝のソロを中心とした沢山の筝作品が、中国語と英語の解説付きで年末までに北京の人民音楽出版社から出る。日本の二十絃筝(21絃)の演奏と、中国の古筝(21絃)トップソリストたちの演奏を対比させたCDも竜音公司から同時に出る。また、琵琶が関わる諸作品も追っ掛けて人民音楽出版社で出版。全てシズカ楊静の演奏のCDが付く。(彼女自身の10作品とCD,DVDは今秋上海から出版)

この秋は、昨年発足した「アジア アンサンブル」が東京トリフォニー小ホール・岡崎市コロネット・宮城県仙南えずこホール、宮崎県門川文化会館などで「アジア・シルクロード音楽フェスティバル」のメイン・イヴェントとしてお目見えする。それぞれのスケジュールの間にシズカ楊静のリサイタルを方々で行なう。詳しくはこのHPのコンサート案内を参照してください。

三木 稔